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京都地方裁判所 昭和51年(行ウ)3号 決定

原告

学校法人青風塾

被告

京都府地方労働委員会

主文

弁護士黒瀬正三郎は本件訴訟につき、弁護士の職務として被告の訴訟代理をしてはならない。

理由

一原告は、弁護士黒瀬正三郎(以下、黒瀬弁護士という)が頭書請求事件(以下、本件訴訟という)につき訴訟行為をなすことに対して異議を申立て、その理由として次のとおり主張した。〈中略〉

二被告は、右主張に対する反論として、次のとおり主張した。〈略〉

三よつて判断するに、本件訴訟記録ならびに弁論の全趣旨に徴すると、第一項1および2の事実が認められ、この事実によれば、黒瀬弁護士が弁護士の職務として被告の訴訟代理をなすことは、弁護士法二五条四号に該当し、許されないというほかはない。けだし、弁護士が被告(行政庁)の訴訟代理をなす場合であつても、その公務員として職務上取扱つた事件についてこれをなすときは、自らその処理に関与したことにこだわつてその処理をあくまで維持すべく弁護士の職務の遂行に無理をおかすおそれがあり、また、訴訟委任を受けて弁護士の職務として訴訟代理をなすときは、一般に弁護士会の会則によつて定められた弁護士報酬を伴うことが弁護士法三三条二項八号、二二条に照して明らかである以上、右弁護士は公務員としての給与のほかに弁護士報酬を得ようとするものと見られることも免れ難いのであつて、これらはいずれも弁護士法二五条四号が弁護士の品位・信用を保持するために防止しようとしているところである、と解するのが相当だからである。

なお、指定代理人(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律五条)は、それが弁護士であつたとしても、指定にかかる訴訟事件の処理については、弁護士の職務としてではなく、行政庁の職員たる地位に基づいてその職務としてこれを遂行するのであり(この故に、指定代理人には復代理人を選任する権限はない)、その訴訟代理権は職員たる地位を離れてはありえないものであるし、弁護士としての訴訟委任をうけた場合の報酬請求権が発生するわけでもないから、指定代理人の訴訟代理には、弁護士の職務として訴訟代理をなす場合とは本質的に異つた性格があり、その故に弁護士法二五条四号の適用はなく、従つてその違反の問題も起りえないのである。

四以上の次第であつて、原告の本件異議申立は理由があるから、主文のとおり決定する。

(上田次郎 孕石孟則 松永眞明)

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